
「探偵に相談したいけれど、何を持って行けばいいのか分からない」――初回相談でいちばん多い悩みです。ネットで見つけた断片的な情報や、スマホに溜まったスクリーンショットを“とにかく全部”渡したくなる気持ちも分かります。でも、情報は多ければ多いほど良いわけではありません。むしろ、整理されていない大量の情報は、調査設計を散らし、費用や期間を膨らませ、相手に気づかれるリスクまで上げてしまいます。
結論から言うと、探偵に渡すべき情報は大きく3つだけです。
1)「何のために」調べるのか(目的・期限・成功条件)
2)「誰を」調べるのか(対象の特定情報)
3)「いつ・どこで」動くのか(行動の手がかり=タイムラインとパターン)
この3つが揃うと、探偵は「やるべきこと」と「やらないこと」を切り分けやすくなり、調査は短く、安全に、成果が使える形に近づきます。逆に、この3つが曖昧だと、調査は当てずっぽうになり、報告書も“使いどころがない”ものになりがちです。本コラムでは、3つの情報をどう集め、どう整え、どう渡すかを、具体的なチェックリスト付きで解説します。
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■ 1)「何のために」調べるのか:目的・期限・成功条件
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探偵に渡す情報の第一は、対象者の情報ではなく「目的」です。目的が曖昧だと、調査は無限に広がります。目的は、次の3点セットで言語化してください。
(A)目的(最終的に決めたいこと)
例:
・関係を続けるか、距離を置くか判断したい
・取引を開始するか中止するか決めたい
・家族の安全を守るために、行動パターンを把握したい
・法的な手続きに進むか、話し合いで終えるか判断したい
(B)期限(いつまでに必要か)
例:
・来月の両家顔合わせまで
・契約締結日まで
・引っ越しの手続き前まで
・社内稟議の締切まで
(C)成功条件(何が分かれば十分か)
ここが最も重要です。「真実を全部知りたい」は気持ちとしては自然ですが、調査としては条件が無限大になります。成功条件は、具体的に。
例:
・対象者本人であることが確認できる
・特定の曜日・時間帯に、特定の場所へ行っているか
・同一人物と継続的に接触している事実があるか
・生活拠点が別にある可能性が高いかどうか
成功条件が明確だと、探偵は調査の“出口”を設定できます。出口がある調査は、費用の上限も設定しやすい。逆に出口がない調査は、延長が前提になりやすく、依頼者側の心身もすり減ります。
■ 目的情報でよくある失敗
・「黒なら別れる、白なら続ける」と言いながら、実際は白でも疑い続けてしまう
・期限を決めず、ダラダラと続けてしまう
・成功条件が「決定的証拠」一択で、現実的な代替条件を持たない
おすすめは、成功条件を“主条件1つ+副条件2つ”にすることです。主条件が難しいとき、調査を無駄に延ばさずに判断できます。
【目的セットのテンプレ(そのまま使えます)】
・私は「____」を決めるために調査したい。
・期限は「__年__月__日」まで。
・分かれば十分なことは「①____ ②____ ③____」。
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■ 2)「誰を」調べるのか:対象の特定情報
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二つ目は、対象者を正確に特定するための情報です。ここが弱いと、調査は“別人リスク”が生まれます。別人を追ってしまうと、時間も費用も損失になりますし、何より非常に危険です。対象者の特定情報は、次の優先順位で揃えてください。
(A)基本の本人情報(可能な範囲で)
・氏名(漢字・ふりがな)
・生年月日(分からなければ推定でも可だが「推定」と明記)
・顔写真(最近のものが望ましい。加工のないもの)
・身長・体格・髪型・眼鏡の有無など外見特徴
・通称、SNSの表示名、ハンドルネーム
(B)連絡先・識別子
・携帯番号、メールアドレス
・SNSアカウント(ID、URL、アイコン、投稿の特徴)
・勤務先名、所属、よく出入りする建物(分かる範囲で)
(C)移動手段・車両情報(あると強い)
・車種、色、ナンバー(下4桁だけでも)
・自転車・バイクの特徴
・よく使う路線、最寄駅、駐車場の場所
■ “情報の質”を上げるコツ:写真は「識別できる角度」
顔写真は1枚より、正面・斜め・横顔があると識別精度が上がります。最近のものがない場合は、髪型や体型が変わっていないかを注意。特に冬は服装が似通うため、上着だけで判断しない工夫が必要です。
■ ここで絶対にやらないこと
対象者のスマホを無断で覗く、パスワードを使って勝手にログインする、位置情報アプリを無断で仕込む――こうした行為は、トラブルや違法のリスクが高いだけでなく、相手に発覚すると警戒心が跳ね上がり、その後の調査が著しく難しくなります。探偵に依頼するなら、依頼者側は「合法に手元にある情報」を丁寧に整えるのが最善です。
【対象者情報のテンプレ】
・対象者:____(氏名/通称)
・外見:__cmくらい、体型__、髪型__、特徴__
・写真:添付(正面/斜め/横)
・連絡先:電話__、メール__、SNS__
・移動:車__(色/車種/ナンバー__) or 電車__線
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■ 3)「いつ・どこで」動くのか:行動の手がかり(タイムラインとパターン)
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三つ目が、調査の成否を最も左右する「行動の手がかり」です。探偵の調査は、対象が動く時間帯と場所を当てられるかどうかで難易度が激変します。ここでいう手がかりは、推理小説のような“決定的ヒント”である必要はありません。小さな事実を積み上げて、行動の確率を上げることが目的です。
(A)タイムライン:確実な事実を時系列に並べる
・いつ(日時)
・どこで(場所)
・何が起きたか(観察できたこと)
・根拠(領収書、メッセージの履歴、目撃など)
例:
・1/10(火)21:30 帰宅が普段より2時間遅い。理由「残業」
・1/12(木)19:00 連絡が取れない。23:00に短文返信
・1/15(日)駅前の駐車場のレシートあり(18:40〜20:10)
・1/20(金)同僚Aが「最近よく早退してる」と発言(伝聞)
ポイントは、伝聞と確実事実を分けることです。「同僚が言っていた」は手がかりとして有用ですが、事実ではなく“情報”として扱うべきもの。探偵に渡すときは「確実:」「伝聞:」「推測:」とラベルをつけると、調査設計がブレません。
(B)パターン:曜日・時間帯・ルートの傾向を出す
・平日/週末で行動が違うか
・給料日付近、連休前後で動きが増えるか
・帰宅が遅いのは何曜日か
・移動手段は固定か(車/電車/タクシー)
・よく立ち寄るコンビニ、駅、駐車場、飲食店があるか
「毎週水曜だけ遅い」など、偏りが見えるだけで調査の狙いが定まります。逆に「いつもバラバラ」であっても、その“バラバラさ”自体が手がかりになることもあります(たとえば、特定の相手に合わせて不規則に動く等)。
(C)制約条件:調査の安全に関わる情報
依頼者が見落としがちですが、調査の安全を守る情報も重要です。
・対象が警戒心が強い/過去にトラブルがある
・同居人がいる、近所づきあいが濃い
・職場が小さく顔が割れやすい
・対象が車移動中心で尾行が難しい
・依頼者自身が対象に探りを入れてしまった(相手が警戒している可能性)
こうした制約は、隠さず共有した方が結果的に安全です。探偵はその制約に合わせて、調査の人数や手順、狙うタイミングを調整できます。
【行動手がかりのテンプレ】
・よく動く曜日/時間:____
・よく行く場所:____(駅/店/駐車場など)
・直近の違和感(事実):____
・伝聞情報:____(誰から、いつ)
・制約条件:____(警戒、露見リスク等)
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■ 3つを渡すときの“形”:1枚で伝わると調査が速い
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ここまでの情報は、理想を言えば「A4 1〜2枚」に収めるのが最強です。探偵が現場で判断するとき、分厚い資料よりも“要点のまとまった概要”が役に立ちます。おすすめは次の構成です。
【1枚目:目的シート】
・目的(最終判断)
・期限
・成功条件(主1+副2)
・予算上限(言える範囲で)
・優先順位(何を優先するか:安全/早さ/確度 等)
【2枚目:対象+行動シート】
・対象の特定情報(外見/写真/連絡先/車両)
・タイムライン(直近2〜4週間で十分)
・パターン(曜日・時間帯・場所)
・制約条件(露見リスク)
この2枚に、必要なら補足のスクショや領収書を“添付資料”として付けます。添付資料は、最初から全部見せるより「これは根拠です」と位置づけを説明できるものだけに絞ると、打ち合わせが滑らかになります。
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■ よくある質問:3つ以外はいらないの?
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「3つ以外は渡しちゃダメ?」というと、そうではありません。ただ、最初に渡す“芯”がこの3つで、他は補助だと考えてください。芯がないまま補助情報だけ増えると、探偵も依頼者も迷子になります。
逆に、芯が明確なら、補助情報は少なくても調査は動きます。たとえば、対象の写真が1枚でも、行動の曜日・時間が読めれば現場は組めます。目的がはっきりしていれば、調査の出口が決まり、短期で終わらせやすい。情報の量ではなく“整合性”が勝ちます。
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■ 注意点:情報提供が多いほど「露見」リスクも上がる
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調査の最大の敵は、相手の警戒です。依頼者が周囲に話し過ぎたり、SNSを漁って足跡を残したり、問い詰めたりすると、相手は行動を変えます。行動が変わると、調査は難しくなり、費用も増えがちです。探偵に依頼するなら、「調査が進むまで余計な動きをしない」というルールを自分に課してください。
また、情報の共有範囲も最小限に。家族に話す場合も「安全上必要な範囲」だけに留め、友人への相談は慎重に。味方のつもりが噂を広げてしまうことが、現実にはよくあります。
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■ 具体例:3つが揃うと、こうやって見積もりが締まる
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ここで、同じ「調査したい」という相談でも、情報の渡し方で結果が変わる例を3つ紹介します。内容はあくまでイメージですが、構造はそのまま使えます。
【例1:目的が曖昧で長期化しやすいケース】
・目的:「最近怪しい。とにかく調べて」
・対象:写真は数年前の1枚のみ
・行動:遅い日がある程度で、曜日も不明
→ 探偵側は「いつ張るか」「何が出たら終わりか」が決めづらく、複数日の張り込みを提案しがち。結果として延長が前提になりやすい。
【例2:目的と成功条件が明確で短期に終わるケース】
・目的:来月の手続きまでに「生活拠点が別か」を判断
・成功条件:平日夜に2回、同じ住所へ入る事実が確認できれば十分
・対象:最近の写真3枚+車の色・車種
・行動:毎週火曜と木曜に帰宅が遅い、駅前駐車場のレシートあり
→ 張るべき曜日と時間帯が明確で、調査日数が絞れる。結果が出たら“出口”があるため、費用上限も設定しやすい。
【例3:安全優先で「調べない」判断ができるケース】
・目的:身の安全を守る(接触回避)
・成功条件:相手の出没時間帯と接触リスクの高い場所が把握できれば十分
・対象:外見特徴と通称のみ
・行動:特定のコンビニ周辺で目撃が複数、時間帯は18〜20時に偏る
→ 深追いではなく、安全確保のための設計(避けるルートや共有範囲の整理)に切り替えられる。結果として、無理な調査をせずにリスクを下げられる。
大事なのは、「3つの情報が揃うと、探偵側の提案が“具体”になる」ことです。具体になるほど、依頼者は比較・判断ができ、不要な延長を止めやすくなります。
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■ 3つの情報を30分で作るワーク
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「分かったけど、結局どうまとめるの?」という方向けに、30分で形にする手順を書きます。紙でもメモアプリでもOKです。
(STEP1)目的を一文にする(3分)
「私は____を決めるために調査したい。」
ここが書けない場合は、まだ依頼の前段階です。まずは“決めたいこと”を整理しましょう。
(STEP2)期限と成功条件を箇条書き(7分)
・期限:__年__月__日
・成功条件:①____ ②____ ③____
成功条件は「分かれば十分」の条件。多くても3つまで。
(STEP3)対象者の識別に必要な要素を並べる(10分)
・顔写真(あれば複数)
・外見特徴(身長・体格・髪型・特徴)
・車両/移動手段(分かる範囲で)
・連絡先/SNS(URLが分かれば強い)
“推定”は推定として書き、断定しないのがポイントです。
(STEP4)直近2〜4週間のタイムライン(10分)
「確実な事実」だけを、日付順に6〜12行程度。
伝聞は別枠にまとめ、ラベルを付けます。
このワークで作ったメモを、そのまま相談時に渡すだけで、面談の質は一段上がります。
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■ 相談当日のコツ:最初の5分で「軸」を渡す
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初回面談は緊張します。だからこそ、冒頭で“軸”を先に渡すのが有効です。おすすめの話し方はこれです。
1)目的:「今日は____を判断するために相談に来ました」
2)期限:「__月__日までに必要です」
3)成功条件:「これが分かれば十分です(主1+副2)」
4)対象:「この人です(写真・特徴)」
5)行動:「張るならこの曜日と時間帯が多いです(根拠)」
ここまでを5分で言えると、探偵側の質問が“確認”に変わり、無駄な脱線が減ります。
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■ 最後に:渡した後に守る「3つのルール」
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情報を渡したら、依頼者側にも守ってほしいルールがあります。調査を成功させるための、シンプルな3つです。
(1)相手に探りを入れない(警戒させない)
(2)周囲に言いふらさない(噂が回ると露見の原因)
(3)追加情報が出たら即共有する(小出しにすると再調査になりやすい)
探偵の仕事は、依頼者の不安を“事実”へ整えること。そのために必要なのは、派手な材料ではなく、整理された3つの情報です。準備が整っていれば、調査は短く、費用も読みやすく、結果も使いやすくなります。
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■ まとめ:3つが揃えば、調査は短く、安全に、使える形になる
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探偵に渡す情報は、結局のところ「目的」「対象」「行動」の3つです。
・目的があるから、調査の出口が決まる。
・対象が特定できるから、別人リスクが消える。
・行動の手がかりがあるから、現場が当たる。
この3つを、A4 1〜2枚で渡せる状態にしてから相談すれば、初回面談の密度が変わります。見積もりの前提も明確になり、比較もしやすくなり、何より依頼者自身が「何が不安で、何が必要か」を整理できます。情報の持ち方が整うと、調査は“感情の嵐”から“判断のためのプロセス”に変わります。
焦って集めた大量の断片より、整った3つの芯。まずはそこから始めてみてください。





